〜Interlude〜 ミライテラスの動画 授業で活用、主体的な学び
グローバルな文脈でSDGsを紹介するオンライン企画「SDGsミライテラス」が始まって1年になります。海洋プラスチックごみ、途上国の貧困、難民支援、持続可能なファッション……。取り上げたテーマは多岐にわたり、学校には過去回の動画(視聴用URL)を無料でお示ししています。授業で動画を使った学校の生徒は、どのように学びを深めていったのでしょうか。(申込先は文末に記載しています)
手賀沼のプラスチックごみは? 二松学舎大付属柏中
千葉県の手賀沼でプラスチックごみを学んだのは、二松学舎大付属柏中(千葉)の2年生です。昨秋、ミライテラスの「海洋プラスチックごみ」を視聴し、折笠彩加教諭(英語科)から「今後の活動につなげよう」と課題を示されていました。生徒は、近くの手賀沼でプラスチックごみの実態を知りたいと考え、体験学習などを手がける会社「奥手賀ツーリズム」のプログラムの活用を提案しました。
ミライテラス「海洋プラスチックごみ」から。日本で最も海洋ごみが漂着する長崎県対馬市の現状が報告された
SUPに乗って岸辺のごみを探す二松学舎大付属柏中の生徒=いずれも2023年3月
3月、その課外授業が行われました。約20人の生徒はまず、陸と水の二手に分かれて沼でごみ拾いをしました。ボードの上に立ってパドルで進むSUP(サップ、スタンドアップパドルボード)を使って岸辺のごみを探し、川の土手でごみも集めました。手賀沼は生活排水が流入し、2001年まで27年間、水質全国ワースト1でした。水質改善は道半ばです。
手賀川の土手でゴミ拾いする生徒。マスクも数多く捨てられていた
ごみで目立ったプラ製品 「ポイ捨て」を想起する生徒
ごみを拾った生徒の「成果」を列挙しましょう。フラフープ、車のバンパー、たばこ、長靴、ビールケース、缶ビール、ペットボトル、かばん、マスク、タイヤ、長靴、サンタクロースの衣装、段ボール、漁具、缶詰、弁当の空き箱、シート、クッション、菓子袋、乾電池。プラスチック製品の多さが際立ちました。矢嶋小春さん(14)は「手賀沼になぜ、ごみがあるのかを考えました。川から流れ込んだり、風で飛ばされたりしてたどり着いたのでしょう。そう考えると、ポイ捨ては理解できません」
集めたごみでアートを制作する生徒
ごみを使ったアート作品を紹介する室伏魁斗君(左)
アート制作にごみ活用 創造性を養う課外授業
その後、ごみを使ったアート制作に取りかかりました。「葉巻たばこを吸うカレーパンマン」をつくった室伏魁斗君(14)は「今の手賀沼でも多くのごみが見つかったわけですから、水質ワースト1だった頃はどんな状況だったのかと想像しました」。奥手賀ツーリズムの八山美里さんは、「自然体験は子供を日常から解き放つことができます。この日学んだことを振り返り、『SDGsにつながる内容だった』と気付くと、SDGsを自分事として理解できるかもしれません」
今回の生徒は、二松学舎大付属柏中の「グローバル探究コース」に在籍しています。主体的に学び、課題発見から解決まで自問自答する力を鍛えることがコースの特徴の一つです。バナナの皮を活用したバナナペーパーを学校全体で導入するように動く班や、使わなくなった制服を寄贈するプロジェクトに取り組む班もあります。折笠教諭は「教師が準備したことを教えるのではなく、生徒と学びを楽しむイメージです。生徒は自分の目で見て、体験したことを大切にして欲しいと願っています」。今後も手賀沼の魚を調べるなど、実践的な学びを継続する予定です。
「創造探究」で活用 学びを広げる取り組み 大阪・高津高校
大阪府立高津(こうづ)高校は学びの領域を広げるため、大学の公開講座や企業のセミナー、卒業生の講演を生徒が受講しています。「創造探究」という教科で、考察をリポートにまとめると単位として認められます。ミライテラスも受講対象に含まれ、今年度は約50人の生徒が視聴しました。
小説家の織田作之助らが学んだ大阪府立高津高校。伊藤忠商事・岡藤正広会長CEOの母校でもある=2023年3月、大阪市天王寺区
1年の黄田悠賀さん(16)は昨夏、「途上国から考える貧困」を視聴しました。中学生まで貧困問題は「自分以外の誰かが解決する遠い世界の話」だったそうです。しかし、高校で貧困の背景や現状を学び、調べていくと、途上国を取り巻く貧困の状況が危機的なものであることを知りました。
「将来は途上国支援に携わりたい」と話す黄田悠賀さん
途上国の貧困を調べ、番組を視聴 問題意識が明確に
インターネットで貧困に関する統計データを集め、全体像を把握した黄田さんは、さらに理解を深めようと学校から紹介されたミライテラスを視聴しました。この回は、ケニアで20年間障害児療育に携わる小児科医の公文和子さんが登壇。西アフリカ最貧国、シエラレオネでパイナップル生産・加工品製造と併せてインフラ整備や医療を提供するドールアジアホールディングスの取り組みを聞いたことで、自分の中で、貧困問題の「解像度」を高めることができたといいます。同社には伊藤忠商事が出資しており、ミライテラスには伊藤忠食料カンパニーの社員が出演しました。
黄田さんは「世界を見れば高校生の年代でも世界のために活動している人がいます。(自分に)遠い問題だと思っていてはいけない。番組を見て、(問題を)解決するのは『誰か』ではなく自分ではないかと思いました」。黄田さんはアフリカの現状を自分の目で知りたいと考え、現地でボランティアなどをする文部科学省の短期留学キャンペーンに応募しました。大学は国際関係学科を志望し、将来は途上国支援に携わりたいそうです。
ミライテラス「途上国から考える貧困」から
「自由と創造」の精神 有為な人材を輩出する狙い
府内有数の進学校である同校が学外の学びを推進する理由はなぜなのでしょうか。その答えは、校訓「自由と創造」にあります。立川猛士校長は「知識を詰め込んだ方が大学入試には有利かもしれませんが、私たちが育てたいのは社会に出たときに自分で何をしたいかが明確な人材です」といいます。創造探究は〈答えのない問いを考える力を育む〉という理念で2011年度にスタートし、2018年度からはSDGsを中心に学びを深めてきました。
大阪府立高津高校の立川猛士校長(右)と前川紘紀教諭
担当する前川紘紀教諭(理科)はあえて学外に出ることで「生徒が色んなチャンネルに触れられる」と話します。1年次は学外の講座を最低三つ受け、2年次で興味のある分野の専門性を高め、3年次に研究して論文を書き上げます。大学卒業後の進路実現の手助けや、将来活躍するために必要な「考える力」を育むことに力を入れています。昨夏、こうしたカリキュラムを学んだ卒業生約3600人にアンケートしたところ、回答者の8割が「高津のカリキュラムが自分の将来を決めるのに役立った」と答え、「学んだことを応用する力が身についた」と答えた人は9割に達しました。
学習指導要領が改訂され、大学入試も転換期を迎えたことで、生徒には深い思考力や表現力が求められる時代になりました。考える力を育んだ生徒は大学からの評価が高く、高津高校の取り組みは結果として大学の求める人材育成に合致したといえるでしょう。「創造」を掲げる同校には近隣の多くの高校がカリキュラムを参考にしようと視察に訪れています。
ゼミ形式でエシカルライフを学ぶ 三輪田学園中
三輪田学園中(東京)は昨年度、「MIWADA-HUB」という探究の授業を始めました。ゼミ形式で自分と社会、自分と学問などをつなぐことを目的とした授業です。家庭科は、人や環境に配慮した消費スタイル「エシカルライフ」をテーマに据え、ミライテラス「フードロスの先へ」の動画を昨秋視聴しました。食品廃棄をめぐる欧米の施策や企業の対応を学びました。
ミライテラス「フードロスの先へ」から
食品廃棄を減らそう 菓子作りに創意工夫
生徒はその後、パンケーキとりんごを使った菓子をつくりました。食品廃棄を減らすためにりんごを皮のついたままオーブンで焼き、芯をスプーンでくりぬいた生徒がいました。芯は校内のコンポストに入れ、できた堆肥(たいひ)を使って和綿の種を植えるそうです。パンケーキつくりでは、小麦を丸ごと活用した全粒粉を使ったり、ビーガン(完全菜食主義者)を意識して乳製品不使用のものをつくったりしました。
調理実習の様子(いずれも三輪田学園提供)
ある女子生徒は「授業でフェアトレードの意味を知りました。フェアトレードのチョコを使って生チョコタルトをつくりました。ニュースでビーガンを知り、ビーガン用のワッフルもつくりました」。髙橋知里さん(15)は「ブロッコリーの茎を食べられるように調理し、ちくわの穴にいれました」。それでも余った茎はコンポストに投入したそうです。
ゼミ形式の授業から派生し、エシカルマーケットを開いた三輪田学園中の生徒
ミライテラスでは食品廃棄に詳しい日本女子大の小林富雄教授が「生産者とのコミュニケーションを大切にして欲しい」と語っていました。その言葉がいきた例もあります。みんなでファーマーズマーケットに出向き、生産者から直接野菜などを購入した時のこと。生徒のひとりは大根を買った際、生産者の「皮も食べられます」というメッセージを読み、皮をきんぴらの食材として調理しました。この生徒は「生産者、食材、いのち。いずれにも感謝の気持ちを持つようになりました。『いただきます』という言葉に心を込めようと思います。ふだんの心がけがSDGsにつながっていくと思います」
三浦教諭の授業を履修した生徒
教室の前に積まれた本を見る三浦教諭。生徒が書籍を通じて学びを深めて欲しいと願っている
三浦教諭は社会人経験などを経て、同校に勤務して5年目になります。「生徒が教室の外でいろんな人に会い、話を聞くことが視野を広げることにつながります。SDGsを自分事とするには、他者とコミュニケーションを上手にとることと、物事をきちんと見る目を養うことが必要と感じています」。授業では教室の前に本を何冊も置いて、生徒が自由に手に取れるようにしています。タブレットで検索するだけでなく、興味を持った事柄の知識を書物からも得るようにして欲しい――。そんな願いがあると聞きました。
朝日新聞マーケティング戦略本部・渡辺元史、橋田正城
===ご案内===
SDGsミライテラスでこれまでに配信した動画を学校の授業でご活用頂けます。ミライテラスのサイト(Archives欄)に過去回の開催概要が載っています。授業に先立ち、先生方にご試聴頂くことにも対応しております。ご依頼は朝日新聞社ミライテラス事務局(miraimedia1@asahi.com)で承っております。